連載•小説 「兄者は死ぬ覚悟」…小一郎の説得に、蜂須賀小六が応えた
「兄者は死ぬ覚悟」…小一郎の説得に、蜂須賀小六が応えた
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2026/03/02

 後に秀吉の有力な腹心となる川並衆・蜂須賀小六と、11歳年下の藤吉郎とは、この墨俣築城の依頼交渉が初対面と見られているが、藤吉郎が信長の配下となる前に父・弥右衛門の知己だった縁でその手下となったとの説もある。

 

日吉丸時代に三河岡崎の矢作橋で寝ているところを、小六率いる野盗の一団が通り、足を踏まれて咎めた度胸を認められ手下に加えられた…というエピソードは後世の創作である。

 

藤吉郎と小一郎は2人がかりで小六のもとに乗り込んで直談判した。どちらの発案かは不明だが、工事の手法は極めてユニークだった。墨俣の現地ではなく、長良川の上流で先に建物の原型を組んでしまう。それを筏に載せ、夜陰に紛れて下流まで運び、墨俣で荷下ろししてそこに設置する。夜が明ければ、そこに忽然と「城」が出現するというわけだ。

 

河川の水運に通じた小六の面前で、藤吉郎はプレハブ住宅の船輸送のようなこの奇抜なアイデアについて熱弁を振るったという。もちろん、川下りの途中で龍興軍に見つかれば一巻の終わり。部下の命を預かる小六はそう簡単には首肯しない。

 

そこで、藤吉郎の横に黙って座っていた小一郎がぽつぽつと話し始めた。「このたび兄者は、この城が建たなければ自分の命も無いものとの覚悟でお頼み致しております」。黙って聞いていた小六は、それに対してぼそりと「…お引き受け申す」と応じたという。(つづく)

 

(西川修一)

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