連載•小説 蔦重ではない版元から出された歌麿の傑作シリーズ
蔦重ではない版元から出された歌麿の傑作シリーズ
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2025/11/10

1794(寛政6)年末以降の歌麿の作品に、『当時全盛似顔揃(後に当時全盛美人揃と改題)』と
『北國五色墨』の2つの傑作がある。前者は吉原の遊女たちの七分像――大首絵と全身像の中間
のポートレートの12枚シリーズ。さりげない表情やしぐさから、個々の遊女のパーソナリティ
がうかがい知れる。
後者の『北國五色墨』は、吉原で暮らす女性たちを描いた大首絵で、1794〜95(寛政6〜7)年頃
の制作。最高ランクの花魁から、川岸見世、鉄砲見世、切見世など最下層の遊女まで、そのし
たたかな生態すら感じられるほどリアルに描き分けられている。
実は、この2作品の版元は蔦重ではない。それぞれ若狭屋与一と伊勢孫という浮世絵や黄表紙な
どを扱う版元が手掛けている。ともに江戸南方の繁華街に位置する芝神明前三島町が拠点。現
在の芝増上寺の門前町に当たる場所だ。伊勢孫は蔦重・耕書堂と提携して商圏を拡げた版元だ
という。
大河ドラマ『べらぼう』の劇中では、金策のため無理な頼み事をする蔦重と歌麿との間の軋轢
が描かれていたが、1794(寛政6)年以降の歌麿は、確かに他の版元との結びつきを強めていっ
たのだ。なぜなのか。(つづく)
主な参考文献:近藤史人『歌麿 抵抗の美人画』朝日新書
      :松木寛『蔦屋重三郎 江戸芸術の演出者』日本経済新聞社
(西川修一)

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