蔦重が入れ込んだ、歌麿ではないプロジェクト&絵師
連載•小説
2025/11/13
歌麿が蔦重以外の版元で作品を発表し始めた理由については、絵師として完全な独り勝ち状態となった歌麿が、他の版元からの強い引き合いに応じたとする説と、蔦重が浮気した、つまり歌麿の作品とは別のプロジェクト、もしくは他の腕利きの絵師に入れ込み始めた、という説の2つが考えられる。
ここでは後者の説に注目しよう。蔦重が入れ込んだプロジェクト、歌麿ではない腕利きの絵師とは?それを知るためには、少し寄り道をする必要がある。
江戸には二大悪所、つまり「行ってはいけない場所」が2か所あった。吉原、そして芝居町だ。芝居町は歌舞伎などの演劇が興行される大規模な歓楽街。特に日本橋周辺の中村座(堺町)、市村座(葺屋町)、森田座(木挽町)が密集した「二丁町」と呼ばれる地域が有名で、芝居小屋と芝居茶屋が軒を連ねていた。現在の日本橋・京橋近辺である。
吉原と同様、芝居町は寛政の改革という逆風をまともに受けた。幕府の風紀粛正政策の一環として、芝居小屋の再建制限や移転命令も検討・実施され、また風紀を正すために様々な規制がかけられ、中村座・市村座、森田座は経営不振に陥っていたのだ。
窮乏する悪所・芝居町に、もう一方の悪所・吉原の盛り上げ役である蔦重が関わるのは自然の成り行きだろう。(つづく)
(西川修一)
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