連載•小説 松平定信をおちょくって絶版となった『天下一面鏡梅鉢』
松平定信をおちょくって絶版となった『天下一面鏡梅鉢』
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2025/08/11

 翌1790(寛政2)年、地本問屋の仲間が公認される。もちろん公認といっても、版元がみんなそ
ろって出版物を自由に出せるようになるわけではなく、その逆だ。
地本の版元を組織化し、その代表である行司を通じて出版物の内容を検閲し、統制しやすくす
るのが目的。問題のある出版物が摘発されれば、仲間の連帯責任となるわけだ。
同時に、風紀を乱すと見なされる書物や幕政批判、時事風刺を含む出版物を禁じるお触れが出
された。新刊本には作者と版元の実名記載を義務づけ、作者・版元への処罰を厳しくした。そ
のターゲットとなったのは、蔦重ら地本の版元が知識階級から一般庶民へと読者を拡大させて
いた洒落本や黄表紙だった。
少しジャンルが異なるが、朱子学以外の学問や思想書の出版を厳しく制限した「寛政異学の禁
」が執り行われたのもこの頃である。
ここから戯作者が次々と表舞台から姿を消してゆく。松平定信の家紋である梅鉢をあからさま
に挿絵に入れた唐来参和の『天下一面鏡梅鉢』は、さっそく絶版の憂き目にあう。蔦重の義弟
であり、名門の旗本から町人の身分に降りた唐来だが、それから約2年の間執筆の自粛を余儀な
くされている。(つづく)

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