政治•経済 太平洋の「真珠」を巡る新たな地政学的競争:中国の南太平洋諸国への影響力拡大
太平洋の「真珠」を巡る新たな地政学的競争:中国の南太平洋諸国への影響力拡大
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2025/12/19

南太平洋の島嶼国群は、かつて英米豪などの西側諸国が主導する静穏な地域であった。しかし、近年、中国が経済援助、インフラ投資、そして安全保障面での関与を急速に強めており、この地域の地政学的風景は一変しつつある。これは、単なる経済的な結びつき強化にとどまらず、西太平洋における覇権確立を目指す中国の壮大な戦略の一環として捉えるべきであり、米国やオーストラリアなどの既存勢力との間で、激しい競争が展開されているのである。

中国が南太平洋諸国に接近する主要な動機の一つは、「一つの中国」原則を国際社会に浸透させることにあった。伝統的に台湾と国交を結んでいた国々に対し、巨額の経済援助や借款を提示し、次々と台湾との断交と中国との国交樹立へと転換させてきた事実は、その外交的成果を示している。これにより、中国は国際機関における影響力を確保・拡大する上で、自国を支持する票田を固めることに成功している。

経済面では、中国からの借款によるインフラ整備が目覚ましい。体育館や官公庁舎の建設、道路・港湾の整備などが進められ、現地経済に大きなインパクトを与えている。例えば、ソロモン諸島では中国が最大の輸出先となっており、経済的な依存度は年々高まっている。さらに、中国の援助は孔子学院の設立を通じた文化・言語の浸透や、観光客の増加など、ソフトパワーの側面からも多角的に展開されている。

しかし、最も国際的な懸念を呼んでいるのは、安全保障分野への関与の深まりである。2022年に中国とソロモン諸島の間で結ばれた安全保障協定は、中国が警察や軍隊を派遣する可能性を含むものであり、オーストラリアや米国に大きな衝撃を与えた。この動きは、中国が南太平洋に戦略的な拠点、すなわち軍事的プレゼンスを確保しようとする意図の表れだと見られている。仮に中国がこの地域に軍事拠点を確立すれば、米豪間の軍事協力の動線を分断し、西太平洋での覇権確立という中国の野望にとって極めて好都合な状況が生まれることになる。

こうした中国の急激な影響力拡大は、南太平洋諸国自身にも複雑な影響を及ぼしている。中国の関与は、短期的な経済的恩恵をもたらす一方で、過度な借款による債務の罠への懸念や、急速な開発に伴う環境破壊、そして政財界中枢における中国系ビジネス関係者の影響力増大による政治腐敗のリスクなどが指摘されている。特に、反中感情の爆発を伴うデモがソロモン諸島で見られたように、地元住民の間では、中国との関係が急速に深まることへの不安や抵抗感がくすぶっている。

中国が推進する「太平洋版真珠の首飾り」戦略は、その名の通り、インド洋に見られるような戦略的拠点のネットワークを太平洋にも構築しようとする試みである。この地域の不安定化は、米国と同盟国によるインド太平洋地域の安全保障枠組み全体に影響を及ぼすため、今後も米中間の競争の最前線として、その動向から目を離すことはできないだろう。

(ジョワキン)

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