政治•経済 漁夫の利か、新たな火種か:日中対立の余波に揺れる韓国と「爆買い」の再来
漁夫の利か、新たな火種か:日中対立の余波に揺れる韓国と「爆買い」の再来
政治•経済

2025/12/05

日中関係の急激な冷え込みは、隣国である韓国に皮肉な「特需」と、それ以上に深刻な「社会的分断」をもたらしている。高市政権の台湾発言を機に、中国は日本へ強硬的姿勢を鮮明にし、日本への団体旅行を敬遠する動きが加速した。行き場を失った中国の巨大な観光需要、いわゆる「チャイナマネー」の矛先が、地理的に近く文化も類似する韓国へと一気に雪崩れ込んでいるのである。しかし、この現象を単なる経済的な恩恵として手放しで喜べる状況にはない。韓国社会の深層には、歓迎ムードを打ち消して余りあるほどの強烈な「反中感情」が渦巻いており、一部ではデモが発生するなど、新たな火種となりつつある。

ソウルの繁華街・明洞や、リゾート地である済州島は、今やコロナ禍以前を彷彿とさせる賑わいを見せている。大型クルーズ船が次々と寄港し、免税店は高級化粧品やブランド品を買い求める中国人観光客で溢れかえっている。長引く不況と内需の低迷に喘いでいた韓国の流通・観光業界にとって、日本へ向かうはずだったこれらの需要が転がり込んできたことは、まさに干天の慈雨である。ロッテや新世界といった大手免税店は、中国語の話せるスタッフを増員し、割引キャンペーンを打つなど、この好機を逃すまいと必死の誘致合戦を展開している。数字だけを見れば、日中対立は韓国経済に「漁夫の利」をもたらしたかのように映る。

だが、この狂騒の裏側で、韓国市民の対中感情はかつてないほど悪化している。もともと韓国では、PM2.5などの大気汚染問題や、キムチや韓服(ハンボク)の起源を巡る中国側の一方的な文化主張、さらにはTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に伴う中国の経済報復(限韓令)の記憶が鮮明であり、中国に対する不信感は根深いものがあった。そこに今回の大量の観光客流入が重なり、長年蓄積された不満が一気に噴出した形だ。済州島のコンビニエンスストアが中国人観光客によってゴミの山と化した写真や、路上での喧騒、禁煙区域での喫煙といったマナー違反がSNSで拡散されるたびに、世論は硬化し、「ノーチャイナ」を叫ぶ声が強まっている。

こうした嫌中ムードは、ネット上の書き込みに留まらず、現実の行動としても現れ始めている。一部の保守系市民団体や地域住民は、中国の影響力拡大やマナー違反に抗議するデモを行い、「中国人の無秩序な流入反対」や「韓国の文化主権を守れ」といったプラカードを掲げて街頭に立っている。彼らにとって、経済的利益のために中国に媚びるような政府や企業の態度は、国の尊厳を売る行為に他ならないと映るのだ。観光公害(オーバーツーリズム)への反発と、地政学的な脅威論、そして文化的な対抗心が複雑に絡み合い、単純な外国人排斥とは異なる、より政治的な色彩を帯びた「反中デモ」へと発展しつつある。

韓国政府は今、極めて難しい舵取りを迫られている。経済を立て直すためには中国という巨大市場と観光客が必要不可欠である一方、国民感情に配慮し、日米との安全保障協力を重視すれば、中国との距離を置かざるを得ない。日中関係の悪化によって転がり込んできた「特需」は、韓国にとって経済的な救世主となるどころか、国内の世論を二分し、対中依存のリスクを改めて浮き彫りにする「毒まんじゅう」となる可能性を秘めている。観光客の落とす金は確かに魅力的だが、それによって失われる社会的な平穏や国民の支持を天秤にかけた時、韓国が支払う代償はあまりにも大きいかもしれない。

(ジョワキン)

TIMES

政治•経済