政治•経済 見えない軍隊の脅威:中国が仕掛ける「武装漁船」というハイブリッド戦
見えない軍隊の脅威:中国が仕掛ける「武装漁船」というハイブリッド戦
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2025/12/02

現代の戦争における最大の脅威は、必ずしも最新鋭のミサイルやステルス戦闘機だけではない。台湾有事や尖閣諸島をめぐる攻防において、中国が重要な駒として運用すると予測されているのが、通称「海上民兵」と呼ばれる武装漁船団である。彼らは一見するとただの漁民であるが、その実態は軍の指揮下で組織的に行動する準軍事組織であり、平時と有事の境目を曖昧にするグレーゾーン事態の主役として機能する。

中国が展開するこの海上民兵は、ロシアによるクリミア併合時に暗躍した「リトル・グリーン・メン(所属不明の緑の服を着た兵士)」になぞらえ、「リトル・ブルー・メン」とも呼ばれる。彼らが乗る漁船は、通常の漁船とは明らかに異なる。船体は補強され、高出力のエンジンや高度な通信機器、時には自動小銃や携行式ミサイルといった軽火器さえ搭載していることもある。さらに重要なのは、彼らが北斗衛星測位システムを通じて中国軍とリアルタイムで連携し、命令一下で整然とした艦隊運動を行える点にある。

尖閣諸島周辺や台湾海峡において、これらの武装漁船が果たす役割は極めて多岐にわたる。まず想定されるのは、圧倒的な数による「飽和攻撃」である。何百隻という漁船が一度に対象海域に押し寄せれば、日本の海上保安庁や台湾の沿岸警備隊の対処能力は物理的に限界を迎える。彼らは領海内を徘徊し、進路妨害や体当たりを繰り返すことで、相手側の法執行機関を疲弊させ、その隙を突いて中国海警局の公船や海軍艦艇が活動範囲を広げるという「サラミ戦術」の尖兵となるのである。

さらに厄介なのが、彼らが作り出す法的なジレンマだ。相手が軍艦であれば自衛隊や軍が対応できるが、外見上は民間船であるため、軍事力を行使すれば「平和な漁民を攻撃した」という国際的な非難を招きかねない。中国はこの心理的な弱点を熟知しており、相手国に引き金を引かせないよう躊躇させ、その間に既成事実を積み上げる戦法を得意としている。仮に台湾有事となれば、これらの漁船団は台湾の港湾を封鎖する機雷敷設の支援や、海底ケーブルの切断、さらには上陸作戦における強襲揚陸艦の盾として利用される恐れさえある。民間人を装った彼らが上陸に成功すれば、それを保護するという名目で正規軍が介入するシナリオも十分に考えられる。

このように、武装漁船を用いた戦術は、軍事と民間の境界を意図的に曖昧にすることで、相手国の防衛システムを機能不全に陥らせる高度な政治戦である。日本にとって、これは単なる密漁や領海侵犯の問題ではない。警察権を行使する海上保安庁と、防衛出動を担う海上自衛隊の隙間を巧妙に突く、国家ぐるみの軍事行動そのものであるといえる。この「見えない軍隊」にいかに対処し、ハイブリッド戦を抑止するかは、東アジアの安全保障における喫緊の課題となっている。

(ジョワキン)

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