政治•経済 柳の下の三匹目のドジョウを狙う米の戦略を警戒せよ
柳の下の三匹目のドジョウを狙う米の戦略を警戒せよ
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2026/01/05

 1991年のソビエト連邦の崩壊を、その10年前に予告した『ソビエト帝国の崩壊』(1980年光文社より刊行)の著者だった政治学者の小室直樹は、ロシア(旧ソ連)のことを国際法の乱用者と評した。一方で日本に対しては、国際法上合法かどうかなど、あまり気にしていない無法者だとした。

 

 日本に対してあんまりな評価だと思われるが、近代日本の戦争は、第1次世界大戦を除いて、日清戦争(豊島沖海戦と成歓の戦い)、日露戦争(旅順口攻撃)、第2次大戦(真珠湾攻撃)と、いずれも宣戦布告前に攻撃を開始しているので、そう評されてもやむを得ないところがある。

 

 それでは英米はどうなのか。小室は、自分たちが国際法の本家卸元のように考えている英米は、国際法など都合次第で好き勝手に解釈を変えればいいのだ、と思い込んでいるとした。

 

 アメリカ独立戦争中に英国海軍は、アメリカを海上封鎖し、独立を支援していたフランス、オランダ、スペイン船ばかりか、中立国の船も拿捕した。ロシアのエカチェリーナ2世は、中立国の経済的権利を守るため、航行の自由と禁制品以外の物資輸送の自由を宣言。スウェーデン・デンマーク・プロイセン・ポルトガルと武装中立同盟を結成。イギリスは、有力な本国艦隊を新大陸に派遣できなくなり、ヨークタウンの戦いに敗北、アメリカは独立した。

 

 フランス革命戦争中の1800年にも、フランスと交易する中立国の船舶の貨物を押収するイギリスの横暴に対し、二度目の武装中立同盟が、ロシア、デンマーク、スウェーデン、プロイセン間で結ばれた。その報復としてネルソンのイギリス艦隊は、コペンハーゲン港のデンマーク艦隊を襲って壊滅させた。

 

 イギリスの法学者は、デンマーク艦隊がフランス艦隊に合流すればイギリスの安全が脅かされるので正当防衛だと主張。小室は、イギリスが都合次第で、国際法の解釈を変えてきた実例としてあげている。

 

 そこで、今回のトランプ政権のベネズエラ侵攻だが、表向きの口実は麻薬密輸対策でも、アメリカに流入する麻薬ルートは、メキシコやカナダ、コロンビアの方が、ベネズエラより多いという。

 

 アメリカの狙いは石油資源と言われる。侵攻の数時間前に中国政府のラテンアメリカ・カリブ海問題担当特別代表である邱肖旗特使が、ベネズエラを訪問してニコラス・マドゥロ大統領と会談。数百に及ぶ二国間協定を確認している。中国にベネズエラの石油資源を利用させたくないのも侵攻理由なのだろう。またエプスタイン・ファイル問題で、人気の落ちているトランプ大統領の人気取りや、「視線を逸らす」のが目的と見る者もいる。

 

 だが、もっと長期的な国家戦略に基づき侵攻したと考えるべきかも知れない。トランプ政権の国家戦略は「米国第一主義」を掲げ、具体的戦略としては「トランプ版モンロー主義」による西半球(南北アメリカ大陸)の勢力圏確保と、外国勢力の排除だ。これは過去の二つの世界大戦における成功体験に基づいている。ユーラシア大陸から離れて位置するアメリカは、世界大戦の初期は戦争に参加することなく交戦国に武器を輸出して利益を得、他国が戦争で疲弊した戦争後半になってから参戦して、一方の勝利に決定的に貢献することで大戦後に世界覇権を握ることが出来た。

 

 旧大陸の大国間の戦争は、アメリカにとって「漁夫の利」(中国戦国時代の史書『戦国策』)となった。だから一時的に旧大陸から手を引けば戦争が勃発し、アメリカの利益になると考えたとして不思議でない。

 

だが、待っているだけでは、守株待兎(株を守りて兎を待つ。『韓非子・五蠹』)結果になるかも知れない。それ故、バイデン政権はNATO加盟問題で、プーチンを刺激してウクライナ・ロシア戦争を起こさせた。そして、アジアでは、台湾有事を喧伝して緊張状態を作りだそうとしている。

それ故、今回のベネズエラ侵攻は、単にトランプ個人の思惑などではなく、アメリカが世界覇権を維持する為の長期的戦略に基づいていると見るべきだ。

 

「トランプにノーベル平和賞を」等と悠長なことを言っている場合ではない。自らの覇権維持の為に、同盟国まで犠牲にするアメリカのエゴイズムにどう対して、この国の安全と平和を守るかが問われている。

米国のベネズエラ攻撃に英スターマー首相は「国際法を順守すべき」と発言

 

(青山みつお)                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             

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