写楽作品が「歌舞伎」役者の顔に応用したのは「能面」だった
連載•小説
2025/12/04
蔦重が考えたのは歌舞伎役者の顔の「類型化」だったのではないか、というのが「写楽=蔦重プロジェクト」説の肝の一つである。もちろんその類型化は、何度も応用できる程度の簡略さが求められると同時に、誰が見ても魅力的なものでなければならない。
その設定・製作のカギとなったのが、「能」の役者である斉藤十郎兵衛だった。どういうことか。
能面は主だったものだけでも実に60種類、その他のものも含めれば約250種を数えるという。そしてそれらは、人の内面に対する深い洞察をもとに「顔貌の魅力ある簡略化・類型化」という難作業を行った先駆けだった。
蔦重はこれを役者絵に応用できないかと考えた――そのために十郎兵衛に声をかけ、能面師の家に受け継がれた能面の「型紙」から転写し、それをベースに各々の役者の顔を決めていった、というわけだ。
現に、写楽の目の表現にしばしば能面と同じ眉・目のパターンや、それまでの浮世絵にはなかった(能面にはよくある)口の中の舌や歯の描写、「熊坂」「小癋見(こべしみ)」といった能面の表現をそのまま借用したような描写があちこちに散見できるのである。
しかし十郎兵衛に取ってこのプロジェクトへの参加は、能の世界から追放されかねない危うい仕事でもあった。(つづく)
主な参考文献:冨田芳和『プロジェクト写楽』武田ランダムハウスジャパン
(西川修一)
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