きつい眼光、歪む表情…謎の新人絵師が描くリアルな役者絵
連載•小説
2025/11/17
1794(寛政6)年の5月に突然、蔦重の耕書堂から歌舞伎役者の大首絵がリリースされた。同じ耕書堂から、判じ絵入りの歌麿の美人画が大きな評判を取ってから、さほど経っていない頃だったようだ。
手掛けた絵師はまったくの新人だった。通常、浮世絵・錦絵の絵師は師匠の下で学びながら戯作を始めとした出版物の挿絵などを描かせてもらい、そこから徐々にステップアップしていき、デビュー作はまず数カットから10カット程度から始めて、その売れ行きを見ながら加減を考えたと言われている。
しかし、この一連の大首絵は何と28カット。新人にしては異例の分量である。何より異様だったのは、見た者をぎょっとさせる絵柄そのものだった。顏のしわ、きつい眼光、ぐっと結んだ口元、歪む表情、手や指先の一瞬の動き……役者本人の特徴を絶妙のタイミングで切り取ってデフォルメすることで、この上なくリアルに表現していたのである。
誰も見た事のない数々の絵柄。その脇には、「東洲斎写楽」という絵師の名が添えられていた。(つづく)
(西川修一)
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