連載•小説 大阪ロマンボーイズ その10  涙した三宮での愚行 後編
大阪ロマンボーイズ その10  涙した三宮での愚行 後編
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2025/08/10

 ショッキングで目に余る出来事があった。それは、三宮で飲み過ぎて帰る道中で起こった。藤田さんと若狭さんと椎野さんと高野さんと俺を含めた5人は酔っぱらってくだを巻いて歩いていた。そこに前方より身体に障害がある人がよろつきながらおぼつかない足取りで向かってくる。その障害者は腕や手もひきつっていて上げた片手を左右に振り回しながら歩いている。その時である。椎野さんがなんとその障害者をまねて同じようによろけ乍ら腕を上げてカンフーのポーズのようにこわばらせながらくねくねと歩き出した。正直、俺は驚いた。あと20メートルもすれば本物の障害者とすれ違うのだ。無事にやり過ごせるのだろうか。たとえ酔っていても後ろめたい気持ちが湧いてくる。藤田さんも高野さんも若狭さんも止めはしないが無言になった。彼らにも思うところはあるのだろう。徐々に正面から向かってくる障害者とふざけて真似ている椎野さんの距離が縮まる。あと、10メートルくらいに近づいていた時にとんでもないことが起きた。そこにたまたま差し掛かった50代くらいのスーツを着たサラリーマン風の男性が本物の障害児に向かって

「貴様っ、自分のやっていることがわかっているのかっ!恥を知れ、恥を!」

と大声で怒鳴ったのだ。その光景を目の当たりにした俺は自分の目と耳を疑った。本物の障害者になんていうことを。すかさず右後方を振り返ると椎野さんが障害者の真似事を止めるに止められずそのまま続けている。藤田さんはその怒っている男性にすかさず歩み寄り

「まあまあ、行きましょう、もう良いから行きましょう、はいはい、こっちへ行きましょう」

「こらぁ、いつまでやっているんだぁ!」

「わかったから、あんたの言う通りじゃ、こっち行こ、こっち」

と誘導して行った。男性に怒鳴られた本物の障害者は当然そのままおぼつかない足取りで進んでいく。俺は椎野さんにふと目を遣ると、未だ障害者の真似事を続けながら、椎野さんの頬に涙がつたっていることに気が付いた。そして、若狭さんの目にも涙が溢れていた。藤田さんは怒っていたサラリーマンを誘導しながらそのまま駅へ吸い込まれて行きその日は俺たちの元に戻ることは無かった。本物の障害者も急に怒鳴られてショックだったろう。いや、咄嗟のことなので何が起こったのか理解すらしていなかったのかもしれない。最もショックを受けたのは椎野さんの方だろう。椎野さんの行為は許されることではないとは思うが人でなしの俺たちが少しだけでも人情を知った瞬間でもあった。椎野さんは大学卒業後、学者を目指して関西大学の大学院に進学したそうだ。哲学者兼革命家を志しているらしい。「椎野よ、まずは、己を磨け」と言われて当然だ。当時の俺は椎野さんを非難するほどの良心が育まれていなかった。今でも思い出すと心が痛む出来事である。

(坂本雅彦)

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