2025/08/09
防衛省が国産長射程ミサイル「12式地対艦誘導弾能力向上型」の初の配備先として、熊本市東
区の陸上自衛隊健軍駐屯地を選定する方向で最終調整を進めている。この決定は、日本の安全保
障政策における重要な一歩であり、反撃能力の具体化を意味する。2025年度末の配備を目指し、
将来的には大分県の湯布院駐屯地や沖縄県の勝連分屯地にも展開する計画である。なぜ熊本が選
ばれたのか。
熊本県は九州の中央に位置し、南西諸島に近く、中国の海洋進出を牽制する上で戦略的に重要
である。中国は近年、東シナ海や太平洋での軍事活動を活発化させ、影響力拡大を狙っている。
射程約1,000キロメートルの長射程ミサイルを熊本に配備することで、中国の沿岸部や艦艇を射程
圏内に収め、抑止力を強化できる。健軍駐屯地は九州の中心部にあり、南西諸島への迅速な展開
や支援が可能な立地である。沖縄への直接配備と比べ、本土の熊本は敵の攻撃リスクが低く、ミ
サイルの安全な運用基盤を確保しやすい。この地政学的優位性が、熊本選定の最大の理由である
。
また、健軍駐屯地は西部方面総監部が所在する主要拠点であり、高度な指揮統制機能を備えて
いる。駐屯地司令が幕僚長を兼務するなど、組織的にも重要な役割を担い、新たなミサイル部隊
の運用に必要なインフラや人員が整っている。近隣には大矢野原演習場や黒石原演習場があり、
ミサイルの発射訓練や運用試験に適した環境が揃っている。これにより、大規模な新施設の建設
を抑えつつ、迅速な配備が可能となる。2016年の熊本地震で一部施設が被害を受けたが、復旧工
事により機能は維持・強化されている。このインフラ面での適性が、健軍駐屯地を選ぶ理由とな
っている。
さらに、健軍駐屯地は地域に根付き、桜並木や創立記念行事を通じて地元との結びつきが強い
。自衛隊の活動が長年親しまれてきたため、ミサイル配備に対する住民の抵抗が比較的少ないと
見込まれる。これは重要な考慮点である。長射程ミサイルの配備は、専守防衛の理念や標的リス
クを巡る議論を呼び起こす可能性があるが、健軍駐屯地の歴史的背景と地域との信頼関係はこう
した懸念を緩和する。防衛省は地元自治体や住民との対話を進め、配備の必要性や安全性を丁寧
に説明することで、円滑な導入を図る方針である。
防衛省は熊本への配備を皮切りに、湯布院や勝連への展開を計画している。これは南西諸島全
体をカバーする防衛網を段階的に構築する戦略である。熊本は九州本土の最初の拠点として、ミ
サイル部隊の運用ノウハウを蓄積し、将来の拡張に向けたモデルケースとなる。沖縄への配備は
中国との緊張を高める可能性があるため、まずは熊本で運用を開始し、技術的・運用上の課題を
解決する戦略が合理的である。この段階的アプローチは、国内外の反応を見極めつつ、防衛力を
強化する狙いがある。
健軍駐屯地への長射程ミサイル配備は、地政学的要因、既存インフラ、地域との関係、段階的
展開の戦略が重なり合った結果である。南西諸島防衛の要衝としての立地、指揮統制や訓練に適
したインフラ、住民との信頼関係、将来の拡張を見据えた選択が、防衛省の決定を後押ししてい
る。一方で、反撃能力の保有は専守防衛の理念や地域の安全への懸念を呼び起こす可能性があり
、透明性のある説明責任が求められる。熊本での配備は、新たな安全保障環境に対応する第一歩
であり、その成否は今後の防衛政策に大きな影響を与える。
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