佐渡金山が噴火し金銀の雨が…幕府を皮肉るユートピアを描く
連載•小説
2025/08/07
蔦重が手がけた唐来参和の『天下一面鏡梅鉢』の内容は、先の2作よりももっと直截的だ。「梅
鉢」は定信の実家と菅原道真の家紋である。舞台は平安時代で主人公の菅原道真が万民に理想
の善政を説き、「めでたき日本」=理想の国を作り上げた…という設定だ。
佐渡の金山が噴火して金銀の雨が降り、穀物が獲れすぎて農家は決まった分量以上の年貢を喜ん
で納める。吉原の遊女が手裏剣の稽古に熱中。芝居がやたら儒教的な説教じみたものばかりに
……等々の描写が、干ばつや大凶作にお手上げの一方、行き過ぎた道徳重視と武芸の奨励を行う
幕府へのきつい皮肉となっている。
「御政道」について一般市民が抱く感情をいち早く汲み取り、面白い読み物としてプロデュー
スする。大衆向け版元の真骨頂といえよう。もちろん、「言論の自由」という概念は当時は存
在しない。版元には幕府当局の目をくぐり抜ける用意周到さが求められた。
店頭に並ぶ前の情報漏れを防いだり、作家の名前や版元の名前を隠す。あるいは風刺する相手
をもっとボカした図柄を用いた別バージョンを念のため用意しておく……といった工夫をこら
していた。
しかし、幕府はそうそう甘くはなかった。(つづく)
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