連載•小説 大阪ロマンボーイズ その9 涙した三宮での愚行 前編
大阪ロマンボーイズ その9 涙した三宮での愚行 前編
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2025/08/06

 いつぞやのこと、藤田さんと高野さんと若狭さんと椎野さんと一緒に三宮で飲んでいた。
いつも行くのは生田新道から東門筋に入ってすぐのところにある雑居ビルの中にKOBE5と
いうカウンターに10席ほどしかない小さなバーである。神戸にあるビルの5階に立地して
いるのでKOBE5なのだ。その日もそこでしこたま飲んでいた。藤田さんはばんからに憧れ
る苦学生気取りであるからカラオケで歌う時はかぐや姫の「神田川」やかまやつひろしの
「あー、わがよき友よ」などを好んで歌う。俺の世代ではかぐや姫の歌う「神田川」より
嘉門達夫が歌う「神田川」の方がメジャーだったりする。藤田さんが歌うのは荒井注バー
ジョンではなかった。
♪みんなでいった横町のすし屋
廻る寿司でもって言ったのに
いつも支払いを任された
高い寿司をたらふく食べて
小さな財布かたかた鳴った
あなたは私の財布を見つめ
ごっちゃんですねって言ったのよ
やばかったあの頃、持ち合わせが無かった
ただ貴方のお誘いが怖かった♪
ネタバレ上等で藤田さんは熱唱する。一番年上の藤田さんがこの調子だから他の皆も面倒
なことに巻き込まれる。それは俺も例外ではない。
  ♪ちっちゃな頃からちっちゃかった
  15で背丈が止まったよ
  財布みたけど入ってない 
  食べるもの皆ありつけない♪(チェッカーズの替え歌)
若狭さんが米米CLUBの「浪漫飛行」を歌おうとしても藤田さんが阻止する。
「おい、若狭よ、この店では「浪漫飛行」を歌うのは禁止になっとるんじゃ」
「え、え、まじですか」
「そうじゃ、『浪漫飛行』と『ロード』は禁止じゃ、マスターがノイローゼになっとるけ」
「じゃあ、何を歌えばええんやろ」
「心配すな、わしが入れといたわ」
加藤和彦の「あの素晴らしい愛をもう一度」が流れてくる。
  ♪仕送りをかけて通った店から
  周りに迷惑かけてきたから
  あの時高野と酒飲んで
  うまいと言っていたけれど
  俺と高野は今はもう入れない
  あの素晴らしい出禁店にもう一度
  あの素晴らしい出禁店にもう一度♪(加藤和彦の替え歌)
確かに出禁になった店があった。酒を飲み過ぎて粗相をしたわけではない。居合わせた客

と喧嘩をしたわけでもない。嫌がる女性にちょっかいをかけもしない。それよりももっと
大きな問題で出禁になったのだ。もはや人間としての根源に関わることだ。それは椎野さ
んがやらかした非道徳的な失敗だ。梅田にある〝ほとんどびょうき″というパブで椎野さん
が藤田さんに促されてキャンディーズの「春一番」を歌ったときである。
 ♪耳が取れて鼻がもげて流れて行きます
 もうすぐダーメですねぇ、ちょっとラリってみませんか♪
絶対にアウトである。1ミリも笑えない。帰り際にもう来ないで下さいって申し渡されて
しまった。当然の仕儀だ。この時、椎野さんや藤田さんがきちんと反省していたかどうか
は疑問である。藤田さんや椎野さんはアリスの「チャンピオン」をよく歌うのだが、歌の
エンディングあたりに連呼する、‶ライラライラライラライ♪″の歌い方が実に怪しい。その
昔、差別をされた難病の方々を揶揄しているようにもとれる歌い方をしていたからだ。嘆
かわしい先輩達である。(つづく、坂本雅彦)

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