第65回 椎野礼仁のTANKA de 爺さん
連載•小説
2026/07/20
「泉園」の母
「お食事をペースト状にかえるのは残念ですが」とジャージの青年
「腹筋が丈夫ですからこのようにきちんと座ってらっしゃいますよ」
耳を噛まんばかりに口が近づいて言われた言葉にフフフと笑う
スプーンを差し込めば口、思いがけず素早く動く目は閉じたまま
すべての皺が口に集まり蠢動す もの食う人のみな美しき
先週は、心ならずも弟を挽歌で送った。父の挽歌は「居留守」と題して第16回以降に何回かで掲載した。そこで母の挽歌をと思ったのだが、父のそれのように、客観的に歌えてなくて、いささか気が割く。
なので今週は、特養老人ホーム(泉園)に過ごした母の晩年についての歌を掲出した。この頃は、僕が誰だかもうわかってなかった。というより、世話をしてくれる人に素直に身を預けていた。
この頃は、一首目の歌のような食事内容だったが、食は決して細くなっていなかったようで、2首目の歌でほめられたように、体には芯が通ってた。
ここまで書いたら、母の挽歌を一つ読んでもらいたくなった。2首目を受けた歌と言えそうだ。そう意識して読んだのではなかったが。
「九五歳なのにお骨が壺いっぱい きっと幸せに暮らしてましたね」
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