連載•小説 第58回 椎野礼仁のTANKA de 爺さん
第58回 椎野礼仁のTANKA de 爺さん
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2026/06/01

 先週の拙歌「金子文子」は、NHKカルチャーセンター青山「福島泰樹・実作短歌入門」の課題詠「映画」に応じたものだった。今週は、他の受講生がどんな歌を詠んだのか、紹介してみる。

 

大階段逃げる人々その後を重装歩兵踏みつけ砕く  松田保子

見た方はあの階段を乳母車が落ちていく名シーンを覚えているだろう。言うまでもなくエイゼンシュテイン監督作品「戦艦ポチョムキン」だ。小説もよくする松田さんらしい切り取り方で、これが連作7首の掉尾を飾った。

 

「この金で」村人渡す路銀かな痛む心を村人も持つ  成島徹子

松本清張原作、野村芳太郎監督作品「砂の器」。ハンセン病への偏見が生んだ、あの長い悲劇の中から、このシーンを取り出した作者のやさしい心根が浮かび上がる。

 

混乱と退廃うずまく大戦の 異国の酒場に紫煙のアルト  高岡治美

マレーネ・デートリッヒとゲーリー・クーパーの悲恋「モロッコ」。僕は未見だったが7首で映画を鑑賞したような気がした。選ばれた言葉のどれもが異国情緒を芬々(ふんぷん)とさせる優れた描写に舌を巻いた。

 

土埃と草いきれの道まよい来てあなたは風の匂いをさせる  臼井敦子

「マディソン郡の橋」を歌った連作の冒頭に置かれた歌。やはり映画と小説の世界観を見事に言葉に定着させた。

 

雷電の舞踏の果てを蒲團から食み出す うで、あし、首二つ  小河内仁美

水上勉原作、内田吐夢監督作品「飢餓海峡」。三句以降の措辞に驚く。短歌にこんな言葉が使えるなんて。

 

まだまだ披露したい歌があるが、残念ながら紙幅が尽きた。

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