政治•経済 中国による経済的影響力の拡大 セルビアのケース
中国による経済的影響力の拡大 セルビアのケース
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2026/05/08

 バルカン半島の要衝セルビアにおいて、中国による経済的浸透は鉄の友情というスローガンのもと、欧州諸国とは一線を画す特異な深化を見せている。現在、セルビアは欧州連合(EU)加盟を目指す候補国でありながら、実態としては中国が欧州へ進出するための「最前線の拠点」としての性格を強めており、その経済構造は引き返せないほど中国資本へと傾斜している。

この浸透を決定づけたのは、インフラ建設からデジタル、防衛、さらには自由貿易にまで及ぶ多層的な協力体制である。象徴的なのは、首都ベオグラードとブダペストを結ぶ高速鉄道プロジェクトであり中国輸出入銀行による巨額融資と中国企業の施工によって進められている。また、2027年に開催予定のベオグラード万博に向けたインフラ整備においても、中国企業が主導的な役割を担っており、国家の威信をかけた大規模事業の成否が中国の資金と技術に委ねられている現状がある。

さらに、2024年7月に発効した中国・セルビア自由貿易協定(FTA)は、この浸透を法的な枠組みで固定化した。これにより、中国産の自動車やリチウムイオン電池、太陽光パネルなどが関税なしでセルビア市場に流入する一方、セルビアは中国にとって欧州市場全体へアクセスするための戦略的な窓口としての価値を高めている。中国は既にセルビアにとって最大の投資国であり、貿易相手国としても第2位の地位を不動のものにしている。

しかし、この急速な接近は債務の持続可能性と環境・人権問題という二つの深刻な歪みを生んでいる。セルビアの対中債務は過去10年で12倍以上に膨れ上がり、2026年の予算案では対外債務の一定割合が中国への返済に充てられる事態となっている。欧州の公的融資に比べて審査が迅速である反面、金利は高く、契約内容が非公開とされるなど透明性の欠如が指摘されている。また、東部の銅山や製鉄所といった中国資本による重工業拠点では、深刻な環境汚染や労働環境の悪化が表面化しており、市民による激しい抗議活動も起きている。

さらに懸念されるのは、経済を突破口とした安全保障面での浸透である。セルビアは中国製の防空ミサイルシステムやドローンを購入しており、デジタル分野でもファーウェイによる監視システムを含むスマートシティ構想が全土で展開されている。これはEUが掲げる安全保障基準や法の支配とは相容れない動きであり、セルビアのEU加盟に向けた道のりをより不透明なものにしている

セルビアの事例は、中国が経済的利益をテコにして、EUのすぐ隣で政治的な影響力を着々と拡大している実態を浮き彫りにしている。ブチッチ政権は中欧間のバランス外交を標榜するが、インフラから軍事、デジタル空間に至るまで中国への依存が深まった現在、その主権的な選択肢は極めて限定的なものに変質しつつある。

(ジョワキン)

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